最後の仕事

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また出力を怠って一年半近く過ぎてしまった。この期間の大きな変化は、去年の4月に転職をしたこと。

転職前の10年間、私はベンチャー企業で働いていた。といっても、週18時間勤務のパートタイマーだ。入った当初は従業員が一人だったので事務全般を、従業員が増えてからは文書管理や申請文書の作成を担当していた。業績が悪化し正社員が全員解雇され、社長と取締役と非正規2名という4人だけの会社になってからは、出向してくれていた技術者もいなくなってしまったので、結局、プログラミングを含む技術系の雑務全般(web、メール、パソコン周りなど)を担当するようになった。

プログラミングに関しては私が0から作るわけではなく、前任者の作ったアプリを修正する仕事だった。ベンチャーにありがちかと思うが、いわゆるメテオフォール開発スタイルで、社長と取締役に言われることが絶対。あれこれ出される指示に対し、了解しました、やってみますと答えて実装する。それ以外は、iOSのバージョンアップに合わせて軽微な修正を繰り返すといったところ。

そうこうしているうちに資金の目処が立ったのか、以前社員だった人を再雇用するなどで社員が増えていった。でも、プログラミングが絡む仕事は会社の業務としてはオプション的な位置付けで、大きいシステムは結局外注するため、専任の人が雇用されない。プログラミングのわかるパートのおばちゃん(私)がいれば会社的には用が足りていたのだった。

アプリだけではなく、開発担当者からデータ解析用コードの作成依頼が入ったり、外注するシステムに組み込むアルゴリズムの予備検討用のコードを頼まれたりするようになり、プログラム仕事は増える一方だった。それなりに色や光、画像処理などの知識も要求される。だから完成すればそこそこの達成感はある。ただ、後ろめたさは常にあった。本来、企業のシステム開発はもっとちゃんとしたもののはずだ。私が作っていて大丈夫なのか?

2年以上前になるんだろうか。ChatGPTの一般へのサービスが始まった。プログラムを1から作らずとも、ChatGPTに指示を出して概ね作らせてから直すと、あっという間に仕上がることを知った。社内規約があるような会社ではないし、アルゴリズム自体は陳腐化した画像処理なので、AIに作らせても何の問題もない(はず)。

そうやって作ったPythonのコードだったが、結局諸般の事情によりC++に直さざるを得なくなった。上の人からはAIでちゃちゃっとできるんじゃない?と言われる。

もちろん、PythonのコードをCにするのもAIはあっという間だ。だが、AIが秒で変換してくれたものが、そう綺麗に動かない。出力されたエラーを貼り付けると、大変申し訳ありません、コードが間違っていました、と、書き直してくる。でもそれも動かない。出力されたエラーを貼る。また謝られる。再修正を繰り返すと、元のプログラムに戻ったりする。わかっているふりをしてくるAIに翻弄されて抜け出せないループに陥るさほどわかっていない自分。自己嫌悪しかない。

文法というよりは、Pythonで画像処理ライブラリを使った箇所のCのライブラリへの置き換えの話だったりするので、本来バージョンと機能を調べるかじっくり読むかして何とかするしかないのだが、怠惰な心が奇跡を待ってAIに問い続けてしまう。

もともとスキルも自信もないエセプログラマの自覚はある。長いこと生きてきた勘でエラー箇所の特定や修正はなんとなく適応できたとしても、それだけの人だ。プログラマですなどととても言えない。しかも、AIを使うことでエセプログラミングに磨きがかっている。実力以上のことができてしまうからこそ、自己肯定感は全く上がらない。むしろ自分の力のなさを思い知る。

だから転職した...ということにしたいような気もするが、それは嘘だ。

休みやすい緩さのあるベンチャーで働くのは、子供が小さいうちはメリットがあった。だが、扶養の範囲で働けるようにという会社側の配慮が継続しているのか、利益が出ていないからか、それとも、そういう評価なのか、10年間私の時給は変わらなかった。おととしも社長からは、メールで感謝の言葉と、お給料据え置きという連絡が入っていた。文字列で改めて見せつけられ、気持ちが沈む。

そんな時だ。昔の知人が私に合いそうな求人情報をくれたのは。勤務時間は倍近くなるが、年収の壁を気にする必要のない金額が入る仕事、しかも、私が経験してきたことが求人の必要とするスキルに並んでいる。広く浅く職を転々としてきた私の技能を、求めてくれる人がいるのかもしれない。もうすぐ下の子も中学を卒業する。仕事を増やすにはいいタイミングだ。ちょうどベンチャーにも技術系の人が1人入ってきていて、その人なら概ね私の業務を引き継いでくれそうだった。

いろいろ整った。今しかない。

新しい職場の採用が決まった後、「人生最後にやりたいことができました」と社長に告げて、退職をした。
わからないけれど多分そこに、私の最後の仕事があるような気がした。


一人暮らしをして働いている上の子にLINEで転職の報告をしたら、
「そんな歳まで働くなんて、かわいそう」
と返ってきた。かわいそう...か、なるほど。

たぶん、ずっと諦めていただけで、本当はもっと働きたかったんだと思うよ。やっと叶ったのがみんなが定年になろうとする歳だった、というだけ。こんな歳だけど、がんばるよ。

なお、新しい職場ではプログラミングはしていないけれど、相変わらずChatGPTは使っている。
ありゃー便利だわ。