夜へ急ぐ人/ちあきなおみ

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 記憶の断片をたどり、歌を探し当てた、初めての曲かもしれない。
 その断片は次のようなものだ。

 ちあきなおみがその歌を熱唱する。
 山川静夫アナウンサーのような声の司会者が「気持ち悪いですね−、さて白組は…」と受け流す。

 私はその歌に衝撃を受けた。おどろおどろしい形相で歌うちあきなおみの姿と歌。画面の記憶があるのはその紅白だけなので、当時何回程度耳にしたかわからないが、メロディは完璧に覚えいるし、歌詞もサビ以降は完璧に覚えている。それだけインパクトがあったのだろう。子供の私がそれほどの衝撃を受けて聞いたのに、白組司会者が「きもちわるい」と簡単 に片付けたことに憤りを感じたほどだ。
 その歌がもう一度聴きたくて私は、ちあきなおみのベストを一枚買ってみた。しかしそこには収録されていなかった。
 となると、例の記憶。山川静夫アナのような司会者、白組。そういうシチュエーションは、「NHK紅白歌合戦」くらいしか知らない。結局その記憶だけが頼りだった。

 Webなど無かった頃である。私はこの歌のタイトルを調べるため、とりあえず新聞の縮刷版をあたった。ちあきなおみが出ていたと思われる年を探した。そして、彼女が歌った曲の中から、タイトルと歌のイメージが合っていて、さらに、私の持っているベスト盤に入っていなかったものとして、この歌のタイトルの見当をつけた。

 「夜へ急ぐ人」である。

 それからというもの、中古レコード屋に行くと、必ず「夜へ急ぐ人」を探した。店の人に聞けるときは聞いてみた。だが一度も見かけたことさえなかった。そして、夜へ急ぐ人は当時売られていたどのちあきなおみのCDにも入っていなかった。

 そのうち、WWWが普及し始めた。私は「夜へ急ぐ人」で当時あったいろんな検索エンジンを使って検索した。が、何一つヒットしなかった。

 そして、さらにWWWは普及していった。またしばらくして検索した時、その曲について誰かが「気持ち悪い」のキーワードをあげているのを発見した。それを見つけただけで、私はかなり満足していた。

 そうこうしているうち、WWWが爆発的に普及していった。2000年頃である。ちあきなおみファンサイトがぞくぞく誕生し、夜へ
急ぐ人のジャケットまでWEBで見ることができた。 そして、ちあきなおみのBOXセットが発売され、そこに遂に「夜へ急ぐ人」が収録された。私はほとんどその一曲だけのためにBOXを買い、長い間聞きたくてたまらなかったその曲を聞いた。
 記憶の歌詞と比較して見ると、サビ部分曖昧だった箇所を自分で勝手に補完していたことがわかった。しかし、この歌は予想していた以上だった。今聞いてもこのインパクトは相当なものだ。