「青春舗道」/香坂みゆき

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 私は「スナッピー」というカセットデッキを持っていた。これは、コンパクトでモノラルなテープレコーダーなのだが、当時の私にはとても立派なものだった。

スナッピースナッピー録音しましょうスナッピースナッピースナッピーナショナルスナッピー。すぐに何でもポンすかポン、歌やおしゃべりポンすかポン、スナッピースナッピーナショナルスナッピー (田中星児?)以上、我慢できずに書いてしまいました。すみません。

 いろいろ一通り録音を楽しんだ次のターゲットは「TVの音」だった。今みたいにビデオが普及している時代には考えにくいかも知れないが、TVの音をとる、写真を撮る、ってのは当時みんなやっていたのではないだろうか。
 そして、とったのはやはりレッツゴーヤングだった。当時私の住んでいた新潟は民放が2チャンネルしかなく、私が見れるような手ごろな歌番組がレッツゴーヤングしかなかったのかもしれない。
 私はその日、親に馬鹿にされながらTVに接続して(いや、マイクを近づけただけか?)タイミングを計って緊張しながら録音ボタンを押した。

 レッツヤンオリジナルヤングヒットソング。香坂みゆきが「青春舗道」を歌った。
 私はこの人が好きだったし歌が上手いと思っていた。しかし、その日、香坂みゆきは思いっきり音をはずした。
「けして、昔の私に戻ったり、しない、でーっしょおー」
の、最後の「お」の部分の音だ。これが「こーのーひろーい」という歌い出しの、「ひ」の音になっていた。あまりにも不自然で人を滝壷に突き落とすようなこんなメロディのはずはあるまい。
 しかし、テープを何度も聞いたため、私の記憶の「青春舗道」はその日の歌唱のままなのである。哀しい。

 この歌をご存知ない方のために簡単に説明すると、メロディラインは「つぐない」みたいな感じの、とても大げさで聞いていて恥ずかしい青春純愛ソング。個人的には、この人のシングルの中では好んでいる曲ではない。

【2002年11月26日 追記】

 2002年11月20日に、香坂みゆきCD-BOX 「ぼくらのベスト」が発売された。そして、私はこの「青春舗道」を20数年ぶりに聞いた。
 記憶の歌は果たして上書きされるのか?
 結果。やはり、若いときの記憶は強い。この歌、例の箇所へ差し掛かると、ものすごく緊張するのである。昔、その録音テープを聴くたび、その部分が近づくたび、「音はずす、はずす…」と緊張していた状態になる。
 しかし、やはり、今聞いても痒くなる歌だ。ブックレットにあったように、「狂おしくー抱かれてみたいー」という歌いだしだったら、と考えたら恐ろしい。

 このBOXを聴きながら、いろんなことを思い出していた。私は香坂みゆきの顔が好きで、歌がうまいことに一目置いていて、レッツゴーヤングを毎週見ていた。「愛よおやすみ」をFMから録音した。テレビでレコード会社対抗運動会をやっていると、必ず「ポリドール」をチェックしていた。
 「KIRARI」も「気分をかえて」も「乾いた花」もテープに録音した。「気分をかえて」をかっこよく歌う香坂みゆきを、関係者でも家族でもないのに誇らしげに、「どうだー。やっぱり歌うまいだろー」とか思っていた。その頃はもう高校生だったので、「レイラ」をお小遣いから普通に買い、これはお買い得と、「気分をかえて」や「乾いた花」も入ったベスト盤「Cry Baby」も買った。
 その後は、だんだんおしゃれでしっとり路線に行っちゃったなー、ちょっと私の趣味とは違うけど、でも歌うまいよなー、とリリースがあるのがうれしかった。「ニュアンスしましょ」はそれなりにヒットして、やっぱり私の趣味とはちょっと違う歌だったけど、テレビに出て歌っているのがうれしかった。女優としてや、普通にタレントとしてテレビに出ているのを見ると、「歌うまいのになー」とか、歌のことばかり思っていた。
 でもその割に、私が香坂みゆきのCDを(中古でなくて)買うのは、「カントス」まで実は飛ぶ。だが、「カントス」はよく聴いた。ちょうど勤め始めて疲れていた私は、最初にリリースされた「カントス1」(ボサノバアレンジ)が一番好きで、寝る前に毎日のように聞いていた。
 そして最近も、「はなまるマーケット」をうっかり見てしまって彼女を見かけた時には、「歌うまいのにねえ」と思ったりした。

 というわけで、純粋にアイドルとしても、歌手としても、香坂みゆきは私にはかなり重要な人である。
 こうして最初から順を追って、本人のコメント付で、CDで曲を聴けるなんて、本当にいい時代になったものだ。