「はみだしチャンピオン」/沖田浩之

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 私は男性アイドル歌手に入れ揚げた事がない。多分、女性の歌声の方が好きなのだと思う。新御三家で言えば、とりあえず、「郷ひろみ」と言っていたが、あまり深い意味はなかった。私の2つ年下の妹がヒデキファンを公言していたから、「じゃあ私は」程度のものだ。むしろ、当時小学校2年だった7つ下の弟の方が「郷ひろみファン」を自認し、2枚組ベストアルバムを持っていた。私などは全くファンと言えるようなものではない。
 というわけで、私は男性アイドル歌手は常識問題が解ける程度だ。比較的楽曲的にご贔屓なものが多いのはシブがき隊、渋谷哲平、あいざき進也、川崎麻世、くらいだろうか。

 私が中学3年の頃、沖田浩之が竹の子族で話題になり、金八先生パート2に出演した。ちょうどまわりがたのきんで騒いでいたこともあって、ああ、この人が次にデビューするんだろうな、位の客観的な目で彼を見ていた。そして、私が高校に入学する頃、沖田浩之は「E気持ち」という歌でデビューした。
 その歌を歌う沖田浩之を見たのは、確か、夜のヒットスタジオだったと思う。「歌が上手い」と聞いたことがあったため、どんな声で歌うのか、本当に上手いのかとても興味があった。たのきんが順番にデビューした時も同じように興味を持って見ていたが、田原俊彦は衝撃的で、「一番歌が上手い」と聞いたマッチの歌声に驚き、そしてヨッちゃんは「ああ、それがいいね」という感じだった。
 さて、「E気持ち」。驚いた。マッチとは違う意味で。
 確かに上手いのだろう。しかし、イメージしていた歌の上手さとは全く違っていた。竹の子族のイメージ、金八先生のイメージ。それらがガラガラと崩れていく。デビューしちゃった、やっちゃった。クールな不良が、もうすっかり更生して、満面の笑顔で接客しているのを目の当たりにした感じ。
 入学した高校のクラスには、ヒロくんの大ファンの女の子がいた。色白の美人だ。彼女はかなり熱が入っていて、私がかつて見たたのきんファンの子が自分の好きなアイドルを語るよりも、熱くヒロくんを語った。ヒロくんはすごく売れていたわけではなかったし、「E気持ち」に続く2曲目も、ちょっとあんまりだよな、と思っていたこともあって、私が「ヒロくんいいよねー」と彼女に言うことはなかった。「のおー」って歌う感じだよね、といった、ちょっとからかったような冗談を言っていた程度だろう。
 ある時、私は彼女が喜ぶTOPICの一つとして、自分のヒデキファンの妹が、ヒロくんカッコイイ、と言っている、と話した。彼女は実際とても喜んでくれた。そして私がすっかりそんなことを忘れていた頃、沖田浩之が3曲目をリリースした。「はみだしチャンピオン」だ。
 2学期が始まったばかりの頃だろうか。彼女が私のところへ「妹さんにあげて」と言ってシングルレコードを持ってきた。彼女は次のように説明した。
 ヒロくんファンは、さあデビューだ応援しよう!と思ったらあんな曲(と彼女は言った)でがっかりし、気を取り直して2曲目がんばろう!と思ったらあれ(半熟期)だったから、大っぴらに応援できなかった、この3曲目が頑張りどころだから応援してどんどん買うんだ。何枚も持っていてもしょうがないから妹さんに聞いてもらってくれ、と。
 更に彼女は言った。「兄ちゃんから聞いたけど、筒美京平はいつもはもっと上手くぬすむ作曲家なんだって」。彼女のこの言葉で、それまで曖昧に認識していた「筒美京平」という名前がきちんと刻まれた。
 妹はレコードをもらったことに戸惑いながらも「はみだしチャンピオン」と「どうにかなっちゃう前奏曲」を繰り返し聞いていた。私は何故だか知らないけど、「どうにかなっちゃう前奏曲」の方はよく覚えている。

 最近、Webで沖田浩之ファンページを見て、そんなに良かったかな、と思いベストCDを購入した。聞いてみて、今まで無関心だった割にはよく知っていることがわかった。多分新曲が出るたび、「ヒロくんファンは今度の歌は満足するんだろうか」「今度は売れるんだろうか」と気になっていたのだろう。それにしても、今聞くと、面白い歌をいっぱい歌った人だ。「お前にマラリア」はすごくよく覚えている。不思議だ。この歌詞、多分、私は当時「マラリア」って病気以外にもなにか意味があるんだろう、思っていたと思う。私って平凡な人物。

 ご冥福を、お祈り致します。