閃光スクランブル感想(ネタばれ多分なし)

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二回くらい読んで感想書こうと思ったけど、とりあえず一回読んだ印象だけを細かい内容に触れずに「ネタばれなし感想」として先にまとめてしまおうと思う。以下読んでいただければわかると思うけれど、私は多分単なるシゲアキのファンやねん。(© 丸山君)

前作の時は加藤君がどんな小説を書く人かもどんな扱いを受けてデビューするのかも未知だったので正直不安だったのだが、今回の本に関してはそういう心配はなかった。というのも「ピンクとグレー」が装丁からしてとても感じの良い本だったことや、過剰な煽りもなく書店まわりをするなどの活動をしている様子なども含め、大切にされているなあと感じたこともあった。新人作家の大事な2作目に、そんなおかしなものを出してくるはずがない。あとは、自分がその作品を受け入れられるかどうかだけだった。

受け入れられるかという不安の理由は「読みやすい作品にした」というのを著者が事前にすごく強調していたからだった。「読みやすい」って何なんだろう。確かに前作の前半が退屈だという感想や、本を読むのが苦手で前半で挫折したという人もネット上でよく見かけたけれど、本を読むのが苦手な人に擦り寄って読みやすくした小説がどういうものなのかが見当もつかなかった。

だが手にして読んで、なるほど、と思ったのだった。常に物語が動き続ける。登場人物もキャラクタが早い段階ではっきりしているのでイメージしやすいし、セリフが多用されていてもセリフだけで誰が話しているかわかる。三人称小説だけど主人公二人のそれぞれの視点で描かれ、一人称的な心理描写も自然にされている。情景や心理状態がわからず我慢して読み進めるような部分がなく没入できる。読みやすいというのは、言語から映像作って脳内でいかに止まることなく動かしていくか、加速させていくかを考えて作ったということなんだろうか。小説の定石をきちんと踏まえ、余計なことをあまりしないで物語を動かすことを重視しているということだろうか。わからないけど、確かに読みやすい。

「アイドルと、そのスキャンダルを狙うパパラッチの話」というそこだけ聞くととにかく下世話な素材なのだが、主役の性格設定のせいか、心理描写が丁寧だからか、嫌悪感はあまり抱かない。アイドル事情をちらちら見せたり、ネットのツールなど芸能好きな一般人が普段多用しているものを芸能人側からの視点で描くなどして、読み手をざわっとさせるような個所も用意されている。でもやはり前作でも感じたように著者の美意識が放つ上品さがあるので、いい意味で泥臭さがなくファンタジックになるように思う。そこを評価しない人も多いだろうが、アイドルとの兼業作家である以上、アイドルが身にまとえないような小説にする必要などないわけだから。

前半は先に述べたように主役二人のそれぞれの視点で書かれており、心理描写がとても自然にされているので感情移入しやすい。でも後半になると二人が同じ視点で動き始めるので、心理描写がセリフに頼りがちになってしまうこともあり、どうしても不自然さを感じてしまう。アクションなんかも著者の脳内映像が走りすぎているのか私の頭の中の映像素材が少ないからなのかわからないが、自分ではちゃんと脳内再生できていなくて映像がブロックノイズでモザイク状態でかろうじてセリフだけ聞こえてくるような、そんな感じになっていた個所もある。ただもう読み手としては頭の中の映像が止められないので、巻き戻して見ることもなく次へ次へと読み進めたくなる。そして最後までノンストップで読みきれる。三人称小説であることが生かされているエンディングも美しい映像がイメージできた。文章を味わうというより、イメージされる映像を味わう小説、という感じだし、読後感がとてもいい。特に、なにより「覚悟」や「再生」という、生きぬくために必要なことを描こうとしている点が好きだった。

私にとっては、加藤君が小説を書いた、という前作と異なり、「閃光スクランブル」は「加藤君は作家になったんだなあ」という作品だった。前作の主な購入層の感想やその他もろもろをリサーチして、前作を挫折した読者でも楽しめるものとして提供してくれたのだろうと思われる作品。兼業なのにこの短期間でこれだけのものを仕上げ、周りの期待にこたえることができる、本当に力のある人なんだろうと思う。素直に「おもしろかったからまた次の作品も楽しみにしています」と言えるし、ライトな読書好きにも薦めやすい。

こうして「一作で終わる人じゃなかった。やった!」という喜びを感じている反面、「ピンクとグレー」に感じた、作家でなかった頃の著者が閉塞感の中から必死で書いたような全力感や、どこかゴツゴツして青臭い煌めきのようなものは処女作特有のものだったのかもなと思ったりもする。「作家」として成長しているのが明らかな分寂しさも感じつつも、いや、ああいう作品を生み出させるような状況にまたNEWSが追い込まれるというのは見ているこっちもしんどいから、アイドルとして充実してエンタメ小説を次々発表していく著者と、その作品を同時に楽しめる方が幸せじゃないかと思うという、なんとも本当に複雑な気持ちでもある。いや、そういう幸せを望む読者が大半になったらわざと違ったものを出してきそうな人かもしれないが。

そうやって多くの作品を書いて人生いろいろあって成長して、いつかまた強い使命感を感じて読み手を刺してやろうとするような、しかも成熟した作品を読むことのできる未来も確実に来るような気がする。